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福岡高等裁判所 昭和45年(ネ)507号 判決

控訴人 金孝連

被控訴人 森繁美

右訴訟代理人弁護士 清水正雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。福岡地方裁判所昭和四三年(手ワ)第三二四号手形判決中控訴人関係部分を認可する。異議申立後の訴訟費用及び控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示(引用にかかる手形判決を含む。ただし、右手形判決中二枚目表一一行目中「法延利息金」とあるのを「手形法所定の利息金」と改め、同一三行目中「被告金孝連の抗弁事実を否認すると答え、」とある部分を除する。)と同一であるから、これをここに引用する。

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

一  被控訴人の主張は要するに次のとおりになるのである。

(一)  控訴人は本件手形三通をみずから振出したものである。

(二)  仮に控訴人みずから振出したものでないとするならば、それは原審(手形訴訟時)相被告裵在教が控訴人を代理して振出したものであり、控訴人はその振出の権限を裵在教に与えていたものである。

(三)  仮に裵在教に右振出の代理権が与えられていなかったとするならば、控訴人は民法第一一〇条により本件手形金支払の責に任ずべきである(原判決事実摘示(一)(二))。

(四)  仮に以上が理由がないとするならば、控訴人と裵在教とは共同して金融業を営んでいたが、控訴人は裵在教が株式会社山口相互銀行福岡支店に控訴人の通称武田良子名義の当座預金口座を開設し、これを利用して武田良子名義の手形を振出すことを許諾し、それに基き裵在教は同口座を開設し、以後武田良子名義で手形を振出していたものであるから、民法一〇九条の表見代理ないしは商法二三条の名板貸の法理により控訴人は本件手形金の支払義務がある。

二  ≪証拠関係省略≫

理由

被控訴人がその主張の手形要件の記載ある(ただし振出人は武田良子、受取人は武田誠一と記載され振出地の記載はなく、振出人の住所が福岡市下呉服町二の三〇と附記されている)約束手形三通を現に所持していることは本件手形である甲第一ないし第三号証の各一の表面の記載と同手形を現に被控訴人が所持していることによって認められる。

そして≪証拠省略≫によれば、該手形は(その基本手形部分)は裵在教が作成したものであること、武田良子は控訴人の通称であり、また武田誠一は裵在教の通称であることが認められるのであるが(該認定に反する原審証人裵在教の証言は信用できない)、かように裵在教が作成した手形について控訴人はその支払義務があるかを判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、控訴人と裵在教とは昭和三六年一二月から昭和四三年九月六日頃まで内縁の夫婦として同棲していたものであるが、裵在教は昭和三七年六月頃から金融業を営み、控訴人はそのもとにあって店の使い走りをしていたこと、その間裵在教は株式会社山口相互銀行福岡支店と取引をしていたが、昭和四三年六月頃裵在教において手形不渡りを出して銀行取引ができなくなったので、以後裵在教は控訴人許諾の下に右銀行との間に控訴人の通称武田良子名義をもって当座預金口座を開設するとともに、武田良子名義のゴム印及び印章(いわゆる控訴人の実印)を自己において預り保管し、これを用いて手形を振出していたこと、ところで、裵在教はその経営する金融業の資金を被控訴人から借入れるため、同年七月三〇日右ゴム印及び印章を使用して、金額を四〇〇万円、満期を同年八月三〇日、振出人名義を武田良子、受取人を自己宛とする約束手形一通を作成し、これを被控訴人に裏書譲渡して同人から金融を得たが、満期に右金員を返済することができないおそれがあったので、裵在教は満期近くになって被控訴人に支払の延期を求め、右手形を切替えるために裵在教において右ゴム印及び印章を使用して前認定の本件手形三通(甲第一ないし第三号証の各一)を作成し、これを被控訴人に裏書譲渡したこと、一方被控訴人は裵在教から前記金四〇〇万円の手形を受取った際、控訴人と共同で金融業をしており、控訴人はその名義をもって株式会社山口相互銀行と取引をしているものであると告げられたので、右手形振出しの事実については控訴人自身に直接確認するまでもなくこれを控訴人振出にかかるものと信頼していたこと、また裵在教から右手形の切替え手形である本件手形の交付を受けた際にも被控訴人はこの点につき何ら疑問をもさしはさまなかったことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

右認定の事実から見れば、本件手形は控訴人がみずから振出し、または裵在教が控訴人の代理人として振出したものでないことは明らかであるから被控訴人のこれらの主張は理由がなく、そうである以上民法一一〇条の表見代理の主張も理由がないこと自から明らかであり、また手形振出行為は絶対的商行為ではあるが、そのこと自体は営業とは直接関係がないので、本件手形の振出しに営業をなすことを前提とする商法二三条の名板貸の規定を適用することは困難であるといわなければならないが、自己の氏名を使用して手形を振出すことを他人に許諾したものである以上、名義貸与者が手形行為者であるという外観を信頼した善意の手形取得者に対しては、商法二三条の規定を類推適用して名義貸与者に手形上の責任を負担させるのが相当である。

しかして、≪証拠省略≫によれば、被控訴人は本件手形三通を拒絶証書作成義務を免除して株式会社佐賀相互銀行に裏書譲渡し、同銀行は請求原因一の(1)の手形については呈示期間内である昭和四三年一〇月一四日に(右手形の満期日である同月一〇日及び同月一三日が休日であることは顕著な事実である。)、同(2)の手形については満期同月一五日に、同(3)の手形については満期の翌日である同月二一日に支払場所に呈示して支払を求めたが、右支払を拒絶せられたので、被控訴人はこれを受戻したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

しからば、本件手形金合計金四〇〇万円及びこれに対する本件手形中最終の満期日の翌日である昭和四三年一〇月二一日から支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める被控訴人の本訴請求は理由があるものといわなければならない。

よって本件手形判決中被控訴人の請求を棄却した部分を取消し、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であるから本件控訴は理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 松村利智 白川芳澄)

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